「白玉の歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり」という若山牧水の歌があるが,これから冬を迎えようかという季節になって,独りしみじみと飲む酒は何とも味わい深いものがある。
などとしおらしいことを言ってはみたものの,夏にはビール,冬には熱燗,合間を縫ってはワインに焼酎といったように,四季を通じてアルコールを楽しんでいる口である。
その誕生のきっかけが故意か偶然かは知る由もないが,酒は古代人による大発明と言っていい。また一方で,今や無くてはならないクルマという文明の利器も,人類史上画期的な創造物である。
だが,世の中うまくいかないもので,この2つは相性が悪い。それもすこぶる付きである。酒を飲んでハンドルを握れば,とんでもない災いをもたらす。創造主は皮肉なことをするものだ。
自宅近くに酒の小売店がある。様々な種類の酒がきちんと整理されて並んでおり,見ていてまことに気持ちがいい。ビールが切れるとこの店に足を運び,ケースで買い求めている。ご主人は気さくな人で,話も快活な上,無駄が無い。「お酒1本からでも配達します」と言ってくれるが,まさかそうも出来ず,持ち重りがする量だったときに限って配達してもらっている。
配達に使われているのは,ダイハツのハイゼットカーゴである<写真>。話を訊いてみると,使用年数は約8年で,走行距離は8万q,毎日20軒ほど配達して回るという。「乱雑に使わせてもらっています。でも丈夫で辛抱強く働いてくれています」と,ご主人は相好を崩す。
取り扱う商品は一様に重いものである。時折り,エレベーターの無い建物の5階まで担ぎ上げることもあって,それはそれはシンドイが,「それを言い出したら切りがありません。10階でなくて良かったと考えれば,それほど苦にはならないものです」など,考え方がすべて前向きな姿勢であることにも頭が下がる。
「軽は配達時の取り回しもよく,荷台からの上げ下ろしの際の荷捌きもしやすいので,助かります」。さらに,「4本のタイヤを履いた真面目で有能な従業員のようなもので,うちの宝です」と,しみじみと語ってくれた。
それを聞いて,軽自動車ファンのひとりである私も,心が暖かくなった。人に役立つというのはそういうものなのであろう。
ビールはプルトップを引き上げて開缶した時の“プシュッ”という音がたまらないし,日本酒は徳利から注がれる“とくとくっ”という感覚がいい。
軽は甲斐甲斐しく走る愛らしさがいい。
(モーターコラムニスト 牧 博明)